2010年8月31日火曜日

温泉と岩尾根

 スキーで横を通り過ぎたことはあったがまだ泊まったことのない白馬鑓温泉小屋が第一の目的地。猿倉から小日向のコルに向かう道は、雪の季節には見通しがよく地形がよく分かるのだが、夏山は全然見通しがきかないなと改めて思った。コルからは遙かに小屋が見えるが、延々と斜面をトラバースしていくので結構時間がかかる。杓子沢を横切るところはかなり急斜面。温泉沢の横を登りだすとお花畑がまだまだ盛りの姿を見せてくれる。クルマユリが見事だった。温泉はちょっと熱いが開放感満点。小屋も夏以外は片付けてしまうバラックだがそれゆえにさっぱりとした感じで気持ちいい。小屋の本棚で鉄腕バーディーYS版1-5巻を見つけて楽しく読む。小屋のすぐ裏に源泉があり、岩の隙間から滔々と湯が湧き出しているようすがよくわかる(動画)。
 翌朝も良い天気だったが、稜線に登り着く前にガスが湧いてくる。おかげであまり暑くない。今日のハイライトは天狗の大下りと不帰の険。写真は不帰二峰から振り返ったところだ。真ん中の小ピークが不帰一峰で奥が天狗の大下り。二峰の登りは遠目にはすごいが、近づいてみるとうまい具合に巻道になっている。時々しか人と会わない稜線を辿って唐松岳に着くと、人がウジャウジャ。唐松小屋泊まりの予定だったがまだ昼過ぎなので五竜山荘まで足をのばすことにした。結局布団一枚に二人弱だったので混み具合はどちらの小屋も一緒だったかもしれない。

 人いきれで暑く、夜中に外に出てみるときれいな月夜だった。朝も快晴は続き、五竜山頂はすばらしい眺め。唐松はここより低いので来た甲斐があった。春に遊んだ立山・剱がすぐそこ。立山はカールが並んでちょっと薬師っぽい。三の窓のまっすぐな谷がきれい。右の方には苦労して登った大窓も見える。

 振り返ると安曇野の雲海の向こうに、来週行く予定の火打や焼山が浮かんでいる。今回はNEX-5にColor-Skopar 28mm f3.5を付けて来たが、光の具合によって両サイドが赤っぽく着色する現象が見られたのがちょっと残念。液晶画面とシャッター音はいいんだけど。帰りは遠見尾根をおりる。じっくり降りるつもりだったが、団体を追い抜くとそのはずみでつい駆け下ってしまう。中遠見の登り返しがきつかった。アルプス平あたりではパラグライダーが沢山飛んでいる。猿倉までタクシー約5000円也。(9/7掲載)

2010年8月25日水曜日

トランス御嶽 =行って帰って=

 週末一泊二日でちょっと手応えのある山歩きがしたいといろいろ考えたが、北アルプスでは二泊しないと中途半端。御嶽で、スキーを使って登ったのと反対側に降りて、できれば次の日に引き返してくるというプランを前から考えていたので、夏山で予行演習をしてみることにした。登山口は、車で標高を稼げる王滝口の田の原とし、剣が峰を経由して濁河温泉へ。登り標高差800m、下り1200mだからそれほどではない。行った道を戻ってくるというところに、何かむなしさを感じないかなと少し心配だったが、手応え充分。溶岩の王滝口と、樹林の濁河口の対比も面白く、御嶽山が立体的に感じられるようになった。
 王滝口は、以前はスキーでの御嶽登山のメインルートで、スキー場トップから田の原に滑り込んで、よく登ったものだが、このところは黒沢口のロープウェイからがメイン。また、田の原からの夏山登山は考えてみると今回が初めてだった。好天に恵まれてずっと背中に日差しをあびながら、動き慣れない体で大汗をかきながら登った。剣が峰が過ぎると人は激減。ひょっとしてロープウェイがやっていないのかと双眼鏡でチェックしたが、ちゃんと動いているものの駐車場はガラガラ。車のままあがれる王滝口が、やはり圧倒的に人気なのだ。賽の河原、摩利支天と経て、五の池小屋に到着。この朝、NHKのテレビ生中継をここからしたそうで、小屋番さんは肩の荷をおろした感じで昼ビールを楽しんでいた。
 まだ昼前だったが濁河温泉に向けて降り始める。立ち止まっている人がいるので聞いてみると、オコジョがいるらしい。溶岩の隙間を素早く出たり入ったり。好奇心とこわいのの葛藤的動作(動画)。ずいぶん細長い。長い長い樹林の中の道を、次の日に影響が残らないようにゆっくりと下った。濁河温泉はもちろん車でも行けるが、山から下りてくるのが一番雰囲気があると思った。車が無くてただひたすらのんびりと湯治するしかない午後というのは、たいへんぜいたくで良かった。宿は去年と同じ、濁河温泉ロッジ。今回は高校陸上部の合宿中だった。
 翌朝は6時に登り始め。昨日の登りと対照的に静かで涼しい。五の池小屋にまた立ち寄ってコーヒーをもらう。いつもきれいに片付いた小屋だ。今は増築工事中。今度は開田道から登って一泊したい。摩利支天はパスして、そのかわり一の池を回ることにする。一の池の茫々とした眺めや、継母岳方面の美しいスロープ、地獄谷のすごさなど、いろいろ味わい深いコースだ。剣が峰からは20倍ぐらいに増えた登山者をかき分けて降りる。田の原には観光バスがたくさん来ていた。jotenkiさん推薦の王滝食堂で、ノンアルコールビールとイノブタ焼肉定食。脂身がうまい。
 写真はまとめてこちら
(追記:2010-11スキーシーズンは、御岳ロープウェイスキー場営業せずとのこと。日当たりと風当たりのバランスのせいか、妙に硬いバーンの多いスキー場なので、BCのアプローチにしか使わなかったが残念。おんたけ2240がリバイバルか。)

2010年8月13日金曜日

NEX-5でよみがえるold lenses

 レンズ交換式カメラにおいては、レンズを取り付ける面とフィルム面(デジタルではCCD等の受光素子)との距離をフランジバックといい、カメラの形式によって様々な値になっている。歴史の古いライカなどの連動距離計カメラでは、フランジバックが短いのに対して、一眼レフでは、反射鏡が動くスペースが必要なため、フランジバックを長くしなければならず、レンズの方でいろいろ無理をして長いフランジバックを実現している。連動距離計カメラの方が、写りがいいと言われる理由の一つは、このような無理をしない素直な設計のレンズが使えるということがある。フランジバックの長いレンズを、フランジバックの短いボディーに付けるのは、ゲタをはかせてやればいいので簡単だが、逆はできない。このため、ライカなど連動距離計カメラのレンズが結ぶ像を、一眼レフで実際にファインダーで見ながら撮影することは、長い間叶わぬ夢だった。
 昨今、ミラーレス一眼と言われるデジタルカメラが登場し、ミラーを使わずに直接CCDで像を観察しながら撮影するため、フランジバックを短くすることができ、実際ライカマウントよりもフランジバックが短いので、上記の夢が叶うことになった。しかし、先発のオリンパス、パナソニックが採用するmicro-4/3規格ではCCDが小さいので、35mmフィルムに比べて真ん中の半分ぐらいしか撮影できず、50mmレンズをつけても100mmレンズ相当の範囲しか写らないというので、イマイチであった。最近、SONYが作ったNEXシリーズでは、もう少しCCDが大きいので50mmレンズで75mmレンズ相当と、まだ許せる撮影範囲となった。ボディーもコンパクトで、小振りな連動距離計カメラのレンズが良く似合う。どれぐらい実際に使うかはやや疑問ながら、買ってみることにした。
 上は、コシナ製28mm F3.5レンズ(Color-Skopar)、左はロシア製50mm F1.5レンズ(Jupiter-3)を、三晃精機製のアダプタを介して付けたところだが、なかなか良く似合う。アダプタを介してオールドレンズを付けるなどというのは、普通メーカーの想定範囲外なので操作性がわるいことが多いのだが、NEXには、ミノルタからソニーに引き継がれたαシステムのレンズもアダプタ経由で付けることができ、この場合もオールドレンズと同様に手動での焦点合わせになるため、このような使い方に対する操作性がよく練られていて大変快適なのがうれしい。ボタン一つで画面が拡大表示されてフォーカシングでき、シャッター半押しで全体像が表示され構図を調整してシャッターを押しきるという操作の流れがスムーズだ。(フォーカシングは絞り開放の方がしやすく、実際の露出時には撮影意図によっていろいろな程度に絞り込むのが普通で、一眼レフではこれが自動的に動作するようになっている。オールドレンズを使うときにはこれも手動で操作しなければならないが、F4ぐらいまでなら絞った状態でもフォーカシングできるのでそれほど不便ではない。)
 これは、ロシア製の28mm F6(!)という暗いレンズ(Orion-15)だが、これぐらいになるとピントの合う範囲が広いので目測で距離目盛りを合わせれば充分だ。このレンズ、ビー玉をはめ込んだようなちっぽけなレンズで、見かけはパッとしないが、トポゴンタイプといわれる原理的に優秀な設計形式が幸いしてか、意外にいい写りをする(作例)。フィルムではF値の暗さのためにちょっと使いにくいのだが、デジタルではISO感度が融通無碍に変わってくれるので、何も不便はない。使っていて気がついたのだが、シャッター音がなかなかいい。従来の一眼レフのようにフォーカルプレーンシャッターなのだが、通常は開放していて、シャッターボタンを押すと一旦閉じてから短時間開いて露出し、また開放という動作をする。この複雑な動作がちょっと高級感のある(何か複雑なことをしていると思わせる)作動音につながっているのだろう。今後、エギザクタマウントレンズ用などレアなマウントアダプタも発売されるようで、しばらくは色々楽しめそうだ。

2010年8月10日火曜日

船窪小屋から烏帽子小屋

 昨年秋にブナ立尾根経由で烏帽子岳に登り裏銀座縦走をして、高瀬川流域の山々になじみができた。少し北に稜線をたどったところにある船窪小屋が、ランプの山小屋、食事のおいしい小屋、良い雰囲気の小屋等々として有名らしいので、昨年泊まった烏帽子小屋と2泊3日で縦走してみた。この辺りは、麓と稜線との間は1400mほどの標高差があるので、行きも帰りもそれぞれハードなだけでなく、稜線の縦走も結構なアップダウンがあってかなり体力が必要とされる。今年は富士山スキーの後、海に行くようになって山歩きを全然していなかったのを、途中で思い知らされることになった。七倉から船窪小屋に登る七倉尾根は、おとなりのブナ立尾根よりハードな印象。ブナ立尾根がハシゴ、桟道などできれいに整備されており、均一な傾斜で登っていけるのに対して、七倉尾根は胸突八丁ならぬ鼻突八丁と言われるぐらい超急斜面がときどき出てきて、息があがる。写真のようにかなりの部分がシャクナゲに覆われていて、花の季節はさぞ美しいのだろう。
 ずーっと花の無い登山道だったが、小屋近くになってお花畑が現れる。雪田の雪の残り方に差があるためか、場所によって季節の進み方にずいぶん差があるのが面白い。チングルマは、白い花が咲いているか、ぼうぼうと種子の毛が伸びた状態か、どちらかを見ることが多いが、写真のように、そのちょうど間の状態が見られるお花畑があった。おしべの付け根辺りから毛が伸び出している。今まであまり見たことがないような気がする。
 たどり着いた船窪小屋は、稜線の真上にがっちりと建てられている。稜線はほぼ南北で、東には大町が見え、西には明日通過する船窪岳から不動岳への稜線、その向こうに立山から五色平を経て薬師に向かう稜線が眺められる。眺めの良い小屋だ。まずお茶を一杯頂いてから寝床を確保。お盆休み前の週末だが、金曜なのでまだゆったりしているようだ。野菜炒めと目玉焼きが入ったインスタントラーメンを作ってもらい、ビールで乾杯。やや天気が不安定なのでまずは小屋で休憩。ときおりザーッと降る雨音を聞きながらの昼寝が終わると、辺りの眺めも回復したようす。
 今日は、週末に備えてヘリの荷揚げがあるそうで、おいしいものが上がってくるぞという期待を込めて、泊まり客総出でヘリを出迎える。下界は晴れているが稜線には雲が去来して視界はやや不安定。ヘリは何度か行き来していたが、最後に七倉尾根沿いに上がってきてヘリポートに荷物を置いてさーっと引き上げていった(動画)。その後、もう一回荷揚げのために近くまでヘリが上がってきたのだが、稜線がガスに覆われてやむなく中断。野菜やらビールやらの荷揚げ品を皆で運んで倉庫に収めた。夕食は期待通りていねいに作られたもので、昨今の山小屋はどこもなかなか健闘しているが、さらにその上を行く素材も調理法も吟味された食事だった。今年から入った(とは思えないほどてきぱきと仕事をされている)小屋番のhikaruさんがメニューの説明をしてくれる。食後も、滞在中のネパールの方が入れてくれたネパール茶+上がってきたばかりのトウモロコシを頂きながら、DVDで小屋のあれこれや針ノ木古道(サラサラ越え)の歴史を勉強。
 翌朝、出がけに水を頒けてもらうが、ここの水は30分ほどおりたところの水場からボランティアの人力で汲んでくるとのこと。それなら、昨日は早く着いたので一度ぐらい汲んでくれば良かったな。多くの同好の人たちの働きで支えられている小屋のようだ。不動岳までの稜線は、左手にずっと荒れた不動沢源頭を眺めながら行く。ここは遠くからでも白いガケとして目立つ稜線だ。またここから流れ出す膨大な量の土砂が高瀬ダムのダム湖に流れ込み、ダムの寿命を縮めている。前回来たときは大型トラックのコンボイがそれを運び出す様子を見たが、何ともむなしい努力に思われた。写真は船窪岳直後の稜線。こんなところが何度も出てきて、道を維持する大変さを思う。
 道は大変だが、花々はきれいだった。写真はイブキジャコウソウ。ずっと曇りがちで眺望はぱっとしないが、ガスで細かな水滴が花について美しさをましている。不動岳まで上がると樹林を抜けて岩稜歩きとなる。ここで10時ちょっと前。ちょっとハイペースで歩きすぎたか、膝が痛くなってくる。南沢岳への稜線は、あまり切れ落ちた箇所はないが、くずれやすい土の斜面が多く、また一苦労させられた。やっと頂上かと思ったら、まだ上がある。秘蔵のジェルを飲んでようやく南沢岳に到着。ここは昨年烏帽子小屋から往復したので見覚えがある。ここまでの行程は、小屋から300m下って船窪乗越、100m登って船窪岳、100m下って250m登って船窪第2ピーク、250m下って400m登って不動岳、200m下って200m登って南沢岳、という感じ。疲れるはずだ。
 よれよれになった足をなんとか運んで烏帽子に向かう。南沢岳から烏帽子岳にかけて、白い砂地のところには薄緑の斑点状にコマクサが沢山生えていて、ちょうど今盛りの様子。こんなにコマクサが群生しているのは他にはなかなかないように思う。ガスが去来する四十八池を過ぎて、烏帽子岳はパスして、前烏帽子の思ったより長い登りを過ぎて、やっと烏帽子小屋到着。カップラーメン+ビールで昼寝は昨日と同じ。この日も夕方になると晴れたので、ヘリポートで三ツ岳や、高瀬川の向こうの燕岳、餓鬼岳を眺めながら同宿の人たちと山談義。野口五郎のテント場が無くなったので、テントの人は三俣蓮華まで行かないとテント場がない、行けるかなと聞く人があり、軽い軽いという声もあり、結構キツイでしょうという意見もあり。明日の水晶小屋は定員の倍の予約が入っているとか。
 翌朝、烏帽子岳に登るが、あと少しのところでガスに囲まれあまり眺め無し。前烏帽子のあたりから昨日の稜線や船窪小屋が眺められたのは良かった。烏帽子小屋に戻りホットミルクで一休み。靴を脱ぐのが面倒だったので小屋の前のトイレに入ったが掃除が行き届いていて快適だった。小屋の前の掃除、箒目まで付けてマニアック。昨日の今日でブナ立尾根の下りが思いやられたが、整備された道のありがたさで、一歩ずつの高低差を減らしてゆっくり降りて何とかこなすことができた。下の方ではアサギマダラが優雅に飛んでいる。高瀬ダムの上で、待ち構えていたタクシーに乗って七倉に戻り、七倉山荘の地味な温泉でたまった汗をながした。