2014年5月20日火曜日

御嶽 東と北から

 木曽御嶽は私たちにはなじみ深い山だが、3000m級の独立峰だけに時期と天候次第で条件が大きく変わるので、いつ行くかの見定めが難しい山でもある。今回は、北西風の残る土曜日にまず東側の中ノ湯から稜線まで登り、風の弱まった日曜日にチャオスキー場から北端の継子岳に登った。狙いは当たって、二日とも天候、雪質ともに恵まれたスキーツアーができた。


来週末からは御岳ロープウェイが動くし、今週末から田の原までの道路が開通するので、中ノ湯(ロープウェイの丁度中間ぐらいの標高の登山口)から登る人は少ないだろう(よほどのヘソマガリ...)との予想通り、静かな山に自分たちだけのシュプールを刻むという贅沢ができた。写真は帰りがけに撮ったものだが、左端を拡大(写真をクリックして出る拡大写真を、もう一度右クリックして別のウインドウで表示させると、最大に出来ます)すると岩と岩の間を通るシュプールが見える。「カズヤシュート」と呼ばれるこのルンゼを滑った。(写真の右の方の、滑り台を横から見たような斜面が、開田高原からの登山道のあるところで、スキーには最高だそうなのでそのうち行ってみたいと、帰ってから記録を見て思った。)
稜線に上がると予想通り強烈な風に見舞われて早々に引き返したが、東斜面はほどよく暖められて絶好のザラメ雪。こういうときはまた、はっきりとシュプールの残るコンディションでもある。写真はカズヤシュートの下部(上天気寺本氏撮影)。軽く登り返しも交えて、滑りを堪能した。雲が激しく流れる様が美しかった。寺本氏の記録



日曜はチャオスキー場の営業最終日。主にボーダーで賑わうゲレンデを後に樹林に分け入る。営業終了の3時までに戻って下さいと言われたのが少々気ぜわしかった。そのせいか、最初に少々高度を稼ぎすぎてヤブコギもあったが、気持ちよくアイゼンの効く斜面を坦々と登り詰めて継子岳山頂に至る。今回楽しみだったのは、先日の北ノ俣岳から御嶽北端(継子岳)がよく見えたので、逆にこっちから見るとどんな風かなということだったが、写真の左の方に見られるように美しく裾野を引く北ノ俣岳の姿を見ることができた。その右の真っ白な三角は薬師岳と黒部五郎岳が重なった姿で、その右の雲のかかったあたりが笠岳。右端の大きいのはもちろん乗鞍岳だ。
滑りは「ぼくらのライン」と呼ばれる滑り台のようなルンゼを使った。ルンゼ内はやや緩みすぎぐらいで、ターンのたびにザッザッと湿った雪をはね飛ばしていく感じ。山頂直下の北東向き斜面を滑り出して、次第に左に寄っていったところが左の写真(上天気寺本氏撮影)。このあたりが堅すぎず柔らかすぎず一番快適な雪で、下に開田高原やマイアスキー場を見ながら、高度感あふれる滑りが楽しめた。左下のくぼみがルンゼの上端。寺本氏の記録


チャオの駐車場から継子岳を見上げた姿をカシミール3Dを使って今回のGPSトラックといっしょに合成し、更に実際の写真と重ね合わせたものが左図だ。赤が今回の登り、青が下り、緑は7年前に初めて登った時のGPSトラックで、このときは右のルンゼから登って、やはり「ぼくらのライン」を滑ったが、4月末だったので頂上直下は辛うじてエッジのかかるコンディションでかなり緊張した。継子岳は「日和田富士」とも呼ばれ、いくつも魅力的なルンゼを持っている(どれも急だが)。快適なスキーツアーには、風・雪のコンディションが緩み、チャオがまだ営業中という狭いタイムウインドウを狙う必要があるが、今回でだいぶ様子が分かったのでまた訪れたい。

2014年5月1日木曜日

薬師岳への長い道のり

 GW時期の中部山岳スキーツアー定番商品の一つに「飛越トンネルから入る太郎平小屋」というのがある。小屋がGW中食事付きで営業してくれるので、軽い荷物で深山(携帯も通じないような)に入ることができる。かつては双六小屋もGWに営業していたので、立山から槍ヶ岳に至る「日本のオートルート」もほとんど小屋泊まりで辿ることができ、太郎平小屋に泊まっていると夜遅くなってからでも、薬師岳を越えてきた人がゼイゼイとたどり着いたものだった。今回はまだ連休前のせいもあってか、そういう人もおらず、至って静かなヒュッテ暮らしを楽しめた。私たちとしてはこのところGWは立山・剱方面に凝っていたので、太郎平小屋は12年ぶり(3回目)となった。小屋泊まりの軽めの荷物ならまだそう苦労なく小屋に入れることが分かったが、以前の記録を見返すともっと速く歩いていたようで、ちょっとくやしかった。
寺地山から見た北ノ俣岳
小屋のHPで「トンネル入口から1.8kmのところに積雪」とあったので、だいぶ上まで車であがれると思っていたのに、ずっと手前で駐車車列を発見。(あとでHPを見直したら「部落から1.8kmに積雪」だった。)4.3km、1時間半以上も歩いて(半分ぐらいは乾燥路面)やっとトンネル入口に到着。ここから夏道沿いに上がったが、最近はトンネル向かって右の尾根を登る人も多いようだ。帰りはトレースに従ってここを滑ったが、こっちの方が傾斜が均一だ。あとはなじみのコースを坦坦と登る。前回は雪解けが早く、トンネルまで車で入れたけど、寺地山の稜線に近づくぐらいまで泥道を歩いた。苦労はするけど雪は多い方がやっぱり気分がいい。寺地山から北ノ俣岳の稜線を見上げると、北アルプスに来た実感がわく。最後に稜線に出るところはハイマツが出ているので、更に北に行くらしい先行者のトレースにつられて右手にトラバースしたが、すぐ下は北ノ俣川源頭の超急斜面なのでコワイ。ここは左に巻くべき。(懲りずに帰りにも同じ所を滑ってしまったが、朝なのでガリガリに凍っていて、更にコワかった。)稜線に出ると、一気に裏銀座方面の山々が見える。正面は大きな赤牛岳だが、これは未踏。それ以外の山々は12年の間にずいぶんおなじみになった。稜線の滑りはフィルムクラストで大変快適だった。YouTube
中央カールに滑り込む。背景は左が赤牛岳、右が水晶岳。
翌日は、黒部五郎方面を目指す人たちと別れて薬師岳に向かう。雪が多いのでほぼ直線状に登れる。薬師岳山荘は2010年リニューアルオープンとのことで真新しい建物になっている。避難小屋は、前回は三方の壁があって風よけになっていたが、今は奥の壁がなくなって氷の固まりになっている。「避難小屋の残骸」だ。山頂に至り、薬師如来にお礼をして、さてと見渡すと、すぐ北側の金作谷カールが急斜面だが良さそう。少し下から入った先行シュプールもあって、安定性も良さそう。お堂の裏から飛び込むと堅すぎず柔らかすぎず、絶妙のコンディションだった。大きな真っ白なカールの中では平衡感覚もスピード感もおかしくなる。前回も滑ったが大勢一緒だったので今回のような非日常感はなかった。南に登り返して、次は中央カールへ。更に大きなカールだ。底はクラスト状で鏡のようになっていて美しい。
中央カールとの境の尾根から見た東南稜カール
ここまで来たらと、さらに南へ登り返して、三つ目の東南稜カールへ。このカールは、上からでも底部の堆石(モレーン)が雪に埋もれきらずにはっきり見分けられる、カールらしいカールだった。中央部は雪庇が発達していて一部崩れているので、また南端のピークを目指して登り、東南稜に上がった。朝は晴れていたが、この辺りまで来ると雲行きがあやしくなったため、更に薬師沢源頭に滑り込む予定を端折って、東南稜をそのまま辿って主稜線に戻り、往路を帰った。
北ノ俣岳山頂から 左から笠岳、乗鞍岳、御嶽
3日目は高曇りながら遠望の効く天気となり、周囲の山々を改めて見直しながら北ノ俣岳に向かう。曇天のおかげで雷鳥たちも姿を見せ、縄張り宣言のグェーが良く聞こえる。山頂からは南方に笠岳、乗鞍岳、御嶽が並んで眺められ、ことに御嶽に陽が当たった姿が意外に近く美しかった。避難小屋までは朝の西向き斜面らしくバリバリに凍った雪面を、足を痺れさせながら下りる。どうもこの斜面は登りも下りも印象に残らない。ゲレンデのように、木もなく真っ平らなせいか。寺地山からの稜線は一部平坦なところやちょっとした登りもあるので、テレマークの、それもソフトな道具が適している。今季愛用靴のGarmont Excursionが快適だった。できればもう一泊して黒部源流も滑りたかったが、天気予報がわるいので1日端折った。それでも十分に充実した3日間を過ごすことができた。太郎平小屋の皆さんに大感謝!